神戸で小三治を堪能しました

 5月14日(土)はとても気持ちのいいお天気、神戸で開かれた柳家小三治独演会に出かけてきました。高校時代はよく新聞会館へ映画を見に来ていましたが、震災後の神戸に来たのは数えるくらい。京都からJR新快速で55分でやってこられるわけですが、いまの私の活動範囲には神戸はほとんど含まれていないのです。大阪を過ぎて尼崎・西宮・芦屋と続く町並みは、阪急神戸線より海側を走るだけあって新鮮で楽しい。関西の若者にとっては六甲や神戸はデートスポットかもしれませんが、私の記憶にあるのは高校時代の映画鑑賞を除けば大半が予備校の模擬試験、学生服を着てうろうろしていた街であったのです。三宮・元町と過ぎて、JR神戸駅周辺もすっかり様変わりしていますね。土曜日の午後と言うことで駅前は大賑わい、一方では震災募金の呼びかけがあって、別の場所では路上パフォーマンス。しかし今日だけは脇目もふらずに急ぎ足、会場は神戸新聞松方ホール、震災直後に建てられたものですが私は初めて、座席数706席の綺麗な空間。ホールへ続くエスカレーターには「完売御礼」の文字が躍っていました。座席は後方の端ではありましたが、高座姿もちゃんと見えて音響もちょうどよく、はじめての生小三治を堪能することができました。

初天神(柳家三之助)
1995年9月の入門で、2010年3月に真打ち昇進。口跡も綺麗で風貌も華やか、なかなか力のある噺家さんとお見受けしました。マクラでしっかりと客をつかんでから入ったのは「初天神」、一瞬おやっと思ったのですが、「初」の部分には触れずに親子のやりとり中心に。もちろん下げまで演じる時間的余裕がありませんから、先ほど駅前で多数見かけた仲のよい親子の姿を彷彿とさせるおだやかな高座でした(20分)。
青菜(柳家小三治)
頭を下げ、顔をあげて一言二言挨拶するとすぐに本題へ、おっ、青菜だ。5月半ばでこれから暑くなろうとする時期、結構な選択ですね。東西多くの噺家が手がけるネタですが、総じて西の噺家がやると長屋の暑さが強調され、東の噺家がやるとお屋敷の涼しさが印象深い。今日の小三治、植木屋職人から見た「お屋敷の本質」を丁寧に掘り出していく演出、庶民目線が徹底してはいますが決して下卑てはいない、誠に論理的にも心情的にもしっくりとくる好演でした。隣の席でほぼ初心者風の若い女性のつぶやき「長いけどおもしろい」、そう思っていただければ私も幸せです(45分)。
中入
あくび指南(柳家小三治)
まくらという著書があるくらいに長いマクラは小三治の代名詞、初めて生で体験できました。座るなり4月17日の東京やなぎ句会の話を持ち出して、同人の消息をあれこれ。関西を意識して、久しぶりにその句会に出席した米朝師のエピソードを中心にマクラだけで48分、ネタに入ってあくび指南を21分、いやぁ至福の一時でした。やなぎ句会のメンバーには正岡容門下生が大勢含まれているわけですが、その紹介をするときに「私だけが断トツで若い」。確かに、米朝師がプロの落語家になったいきさつは当時の師である正岡容から勧められて四代目米團治に入門したというのは有名な話。これが戦後すぐのことですから、そんなメンバーと同人として句会を続けている小三治師は、実年齢以上に落語を含む伝統芸能の多様な水脈につながっているわけで、これが彼の噺の奥行き形成にいわば堆肥のような効果を発揮しているのでしょう。米朝と松鶴の対比など、個人的にはもっと聴きたい情報満載、正直に言えば本題なしでマクラだけでもよかったかな(69分)。

投稿者: myon

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