第四回さん喬・松喬二人会

 これまでは原則として京都の落語会を中心にしていましたが、このところ大阪・神戸にも足をのばしています。理由は、東京の噺家さんを生で聴く機会を増やしたいから。昨日は、大阪市立こども文化センターで開催された「第四回さん喬・松喬二人会」へ行ってきました。柳家さん喬師は五代目小さんの弟子、高校卒業直後の入門で45年のキャリアを誇る大ベテラン、この方でもすでに試験制度のもとで真打ちになられたのですね。以前NHKで「芝浜」を観たことがありますが生で聴くのは初めて、いやぁ良かったですよ。上方では枝雀亜流の演者が落ち着きのない高座でしらけさせられることが多い今日、座布団の上で声と仕草で魅せる芸には心底感動。しかもトリが佃祭、松喬さん自身も数えるほどしか聴いたことがないとのこと、ラッキーな一夜でした。


 今回の番組は以下の通り。

阿弥陀池(桂福矢
福団治さんの6番目のお弟子さん、入門18年目の中堅、しかし私にとっては落語家ではありません。技術以前のこととして、プロが客の前に出て行けば最初に頭を下げて挨拶し、降りるときにも頭を下げるのは当たり前。ところが、この方はお辞儀ができていないのです。小拍子をたたいてお辞儀をし、その後頭を上げて客席を見てから咄を始める・・・はず。ところが、頭を下げきっていないから目線が下がらない、知り合いと雑談でも始めるのか・・・。咄を下げた後もやはり同様、本当に気分の悪い高座でした。器がなければ水はすくえないことが分かっているのか、18分。
三枚起請(柳家さん喬
はじめての生さん喬、期待に違わぬ好演でした。この咄、もとが上方ネタですからストーリーは同じ。ただ、上方では源兵衛と喜六で起請文の内容が少し違っているのですが、そのような演出はなし。しかし、棟梁・若旦那・置屋の女将と、演じ分ける口調は大変見事。座布団から身を離すことなく、上下左右に空間を構成する見事さは、落語初心者にぜひ観て欲しい。権太楼師とは違った魅力で結構でした、24分。
三十石夢通路(笑福亭松喬
先日上梓された「おやっさん」の宣伝を兼ねたマクラで笑いをとり、久しぶりに演じるという三十石が始まりました。前半の聴き所は、船宿で番頭が乗船名簿を書き取る場面、客が順に住所氏名を名乗るわけですが、竹内日出男・中川清・長谷川多持・河合一・・・、上方落語四天王の本名をずらっと並べておりました。もちろん、個人的には大笑い、この後一門の本名を続けた最後は菅直人、これはちと余計か。後半の聴き所は楽屋との掛け合いで船頭が舟歌を歌いつつ、周辺の風俗を折り込んでの川下り。今回は泥棒の件まで行かずに下げましたが、さん喬師の後だけに豪放磊落の笑福亭らしさが際だって、これまた結構でありました、42分。
お仲入り
馬の田楽(笑福亭松喬)
三十石の船頭を中腰で演じると一週間は足がパンパンと、この咄を久しくしていない理由は体力が必要だからとか。二席目は子どもが活躍する馬の田楽、ナマズみたいな風貌で子ども言葉を使えばそれだけで爆笑、軽く演じて23分。
佃祭(柳家さん喬)
当日のプログラムの解説に寄れば、当初決まっていたこの咄を震災直後にさん喬師自身が変更を申し出たとか。もちろん、船が転覆して大勢の死者が出るという内容を避けたいため。その後、東京の寄席でも雰囲気が変わってきたこともあって、予定通り演じことになったとのこと。東京のネタではありますが、佃島自体は大坂と縁の深い場所、関西での夏の会にはぴったりの大ネタ。私自身、活字でしか知らない咄でしたから、生で聴けたのは本当にラッキー。マクラで持仏と使い姫の説明をされたのですが、使い姫という表現は初めて知りました、使わしめ=神様の使いのことですね。志ん朝師の使い姫が鰻なので生涯鰻を食べなかったが、私も自分の使い姫であるネズミは決して食べませんと。また、三十石を聴いて圓生師の三十石は偽物だったとか、このクラスの大物でも(だからこそか)大阪で笑いを取ることに配慮もしくは緊張があることを正直に語っておられました。次回の二人会は年末の12月16日(金)、ぜひチケットをとりたいと思います、44分。

投稿者: myon

このブログの管理人は,京都の下町に住み,大阪の女子大に勤務するお気楽オジサンです.通勤車内の読書記録・上方落語鑑賞メモ・料理食べたり作ったり・同居猫ココの日常などを主なコンテンツとしています.