第六回さん喬・松喬二人会

[flickr id=”7660337770″ thumbnail=”thumbnail” overlay=”true” size=”medium_800″ group=”” align=”left”] 昨年7月31日に第四回を聴いていますが、年末に松喬師の肝臓癌が発覚、それ以後の闘病生活についてはご本人がブログで報告されています。経過についてはそちらをご覧いただくこととして、何しろ久しぶりに拝見した姿がげっそりとやつれています。7月11日に放送された「平成紅梅亭」の画面でもいささかお疲れのようでしたが、明らかにその時より辛そうな印象。高座に座る際見台に手を置いているところから、本当に大丈夫かと心配しました。ところが、噺に入ると段々と調子が出てきて声の張りは素晴らしい。ご本人も仰っていましたが、精神力の強さに感じ入りました。記憶に残る1日、やはり行っておいてよかった。

時うどん(笑福亭生喬)
松喬師の三番目のお弟子さん、キャリアも20年を超え自分の弟子もとり、ネタ数も多い勉強家。先月15日間師匠とともに北海道の興行に行き、2000kmを超える車の運転を全て師匠にまかせたとか。その間前座としては同じネタで通すことにして「時うどん」をやり続け、「洗練された時うどん」としたのでそれを聴いて欲しいと。プラグラムを見たときに「なぜこの時期に」と思ったのですが、さすがによく工夫されていました。通常は冬の寒い時期に熱いうどんとなるのですが、「冷やかし帰り」でもなく「当たり屋と外れ屋」のうどん・だし・丼などの違いもなく、季節感も外してただただ「一文誤魔化す」だけの噺に絞ったもの。確かに、落語になれていない方がいらっしゃる地方公演や学校公演などではこのスタイルは受け入れられやすいでしょうね。前座の役割に徹した、プロの高座でした(19分)。
大安売り(笑福亭松喬)
座るなりこの間の病状と闘病の経過報告、自身のブログを6月分まるまる休まれていたのでとても気になっていました。体調不良と診断に至るまでの経過、それ以降の闘病の様子を豊富な癌についての知識をまじえてのマクラ・・・というよりも、むしろ健康教室の講演を聴いているかのよう。抗がん剤の効果を超える順調な経過の秘密は「免疫力」にあり、その免疫力の根源は「笑い」であるとの(医師も同調した)結論(=落ち)に持って行くプロセスは誠に完成度の高いネタ。かつて故・春蝶師が自分の入院の経過を語りつつ「あの一滴ずつ落ちる点滴が・・・うんこを作りまんねん」として笑わせていたことを思い出しました。噺の方は若手がよくやる相撲ネタですが、自身は20数年ぶりとか。いわば本編が付け足しのような35分、安心かつ得心させられました。
船徳(柳家さん喬)
テレビの落語放送ではしょっちゅうチェックしていますが、生で聴くのは昨年のこの会に続いて二度目。プロフィールを見れば、松喬師よりも2年先輩なのですね。東京の夏の定番ネタ、いろんな方がやられますが私自身は何方がどうというほど聴いてはいません。ただ、さん喬師のやり方では船宿の女将さんの客を前にしてのお愛想と徳さんとの内輪話の切り替えが誠に見事。動きの少ない東京ネタの中では、船の上で揺れる仕草が入って賑やかに動く高座、大熱演の41分。
お仲入り
たがや(柳家さん喬)
意外なことに、「ネタおろし」とのこと。マクラで圓生・彦六・小さんの物まねを入れるサービス、普段もやられるのでしょうか。こちらも夏の定番ネタ、さすがに口慣れないのか橋の名前を何度か言い直すところがありました。職人のたが屋が橋の上で侍といざこざになり、家来3人を切り捨て、最後に武士の首をはねるというストーリー。上方落語では武士の出番は少ないこともあって、人を切るというシーンはあまりありません。それもあって、個人的には馴染みにくい噺ではありますが、サゲの漫画チックなところで少しは救われますね、27分。
へっつい幽霊(笑福亭松喬)
マクラなしですぐに本編、1席目で声の調子をつかんだのか、誠に張りのあるいい声です。熊五郎の銅鑼声と作ぼんの生ったれた喋りの対比、これぞ笑福亭の息ですな。幽霊が登場しますから、何度か腰を上げるシーンもあるのですが、何ら違和感を感じさせずにサゲまで。来月もまた入院されるとのことですが、癌を完治するのではなく付き合い続けるというご本人の説明通り、癌と落語の共生生活の長からんことを祈ります、満足の32分。

投稿者: myon

このブログの管理人は,京都の下町に住み,大阪の女子大に勤務するお気楽オジサンです.通勤車内の読書記録・上方落語鑑賞メモ・料理食べたり作ったり・同居猫ココの日常などを主なコンテンツとしています.