二つの学び

北千里駅前の桜
北千里駅前の桜

 私の職場は今日が入学式、その後学科毎のガイダンスとランチを終えた学生たちは、午後から生活オリエンテーション。その冒頭で、15分間のスピーチをしてきました。以前なら、テーマと時間をいただければ(ほぼ)即興で話を組み立てて落ちをつける自信はあったのですが、近頃は話が飛ぶと戻ってこれなくなる恐れがあります。ということで、事前にざっとしたメモを作成して臨みました。iPhoneのタイマーを15分にセットして時間はぴったり、もっとも、中身にはかなりアドリブ入れてしまいましたが。

『二つの学び』
 新入生の皆さん、入学おめでとうございます。生活オリエンテーションの場を借りて、学生生活で最も多くの時間を費やす「大学での学び」についてお話しさせていただきます。
 皆さんはこれから四年間の学生生活において、「卒業要件」を満たすことが要求されます。具体的には、生活科学部食物栄養学科では126単位以上、生活科学部児童学科及び看護学部看護学科では124単位以上を修得することで大学を卒業することができるのです。「単位」という言葉にまだ慣れない方が多いでしょうが、明日の履修指導で詳しく話される事柄なので、ここでは説明を省略します。
 これから皆さんが履修される科目には、「教養科目」と「専門科目」という二つのカテゴリーがあります。「専門科目」というのは、皆さんの所属学科でその受験資格を得ようとする各種資格に必要な科目群です。具体的には、管理栄養士や栄養教諭、保育士や幼稚園・小学校教諭、看護師・保健師・助産師・養護教諭といった各種資格(の受験資格)を得るために学ばねばならない科目群です。これらの科目を修得し国家試験に合格することによって、皆さんはその資格を活かす職業について生活を営み、社会に貢献することができます。つまり、「専門科目」というのは「生きるための学び」ということができます。
 「生きるための学び」としての専門科目は、概して「知識蓄積型の学び」です。一年次に基礎的な知識を得、二年次にはより専門的なものを、それらを踏まえて施設実習に臨み、その体験を経てこれまで学んだ知識や技術を自分のものとすることができるのです。この専門科目は、みなさんの卒業要件の八割を占めています。
 それに対して、「教養科目」は資格取得に直接的な関係はありません。しかも単位数は卒業要件の二割に過ぎません。ところが、この教養科目こそが卒業後みなさんが生きていく上で大変重要な働きをするのです。先ほど専門科目を「生きるための学び」と言いました、それに倣うならば、教養科目は「死ぬための学び」と言っていいと思います。もちろん、「死ぬための学び」と言っても、自殺をするためのノウハウでは決してありません。
 みなさんは、当たり前のことですが「幸せな人生」を送りたいと願うでしょう。当然のことだと思います。そして「幸せな人生」の先には何がありますか・・・、それは「死」です。つまり、幸せな人生のゴールは死ぬこと、幸せに死ぬことこそが「幸せな人生」に他ならないのです。幸せな人生を送るためには、「死に対する理解」を持つことが不可欠です。人間は必ず死ぬ、死を免れないのだとしたら、「死とは何か」「幸せとは」「生きることの意味は」といった問いかけをすることなしに、私たちは生きていくことができません。だって、自分の人生のゴールがどこにあるのか知らなければ、どこへ向かって生きていけばいいのかわかりません。このような事柄について学ぶことは、専門教育ではなく教養教育の役割です。
 先ほど専門教育は「知識蓄積型の学び」と言いましたが、教養教育は「心身鍛錬型の学び」と呼ぶことができます。スポーツをする際に事前の準備運動は欠かせませんし、競技スポーツの場合には反復トレーニングによって特定の技術を身につけます。同じように、大学の学びにおいて「学び方」を最初に身につけておかねば、知識の蓄積や運用に苦しむことになります。基本的なノートの取り方、レポートの書き方、コンピュータネットワークの使い方、発表の仕方・・・、このようなスキルを身につけることによって初めて大学の授業に臨むことができます。しかもそれは日常の反復的な実践抜きには身につきません、まさに身体トレーニングのようですね。
 他方、先ほど述べたように「幸せとは」「死とは」といった問いかけをするためには、自分だけでトレーニングすることは非常に困難です。幸せについて考えるには、例えば古今東西の書物によって多様な考え方の存在を確認したり友人と語り合ったりすることが有効でしょう。死について学ぶには、身近な高齢者の生き様に触れることなどが重要です。つまり、自分以外の他者との出会いが不可欠なのですね。他者の精神に触れることによって、自分の精神が揺さぶられ、驚きや感動が生じるのです。それは机上の学びだけでは不可能であり、映画を見たり美術作品を鑑賞したりすることも有効な方法です。まさに、精神のトレーニングです。
 以上をまとめると、皆さんは大学において二つの学びを実践する、それは「教養科目」と「専門科目」である。「専門科目」は「生きるための学び」であり、「知識蓄積型」というスタイルであり、資格取得に不可欠。他方、「教養科目」は「死ぬための学び」であり、「心身鍛練型」というスタイルである。身体トレーニングの日常的実践は専門教育の学びの深化を可能にし、精神トレーニングの実践は卒業後の人生を幸せなものへと導く。
 これまでお話ししてきた「二つの学び」、みなさんはどのように受け止めていただけましたか?もちろん、異論や反論はあると思います。しかし、身体と精神のトレーニングを怠れば夢は叶わない、そのことはご理解いただけたと信じています。みなさんは身分的・制度的にはすでに大学生ですが、生活レベルではいまだ大学生にはなり得ていません。どうか日常的な心身鍛練を怠らず、大学生としての生活リズムを一日も早く身につけられることを願います。

投稿者: myon

このブログの管理人は,京都の下町に住み,大阪の女子大に勤務するお気楽オジサンです.通勤車内の読書記録・上方落語鑑賞メモ・料理食べたり作ったり・同居猫ココの日常などを主なコンテンツとしています.