第1回新治小染二人会

第1回新治小染二人会
第1回新治小染二人会

 5月最後の土曜日、大阪へ出かけてまいりました。目的は二つ、大阪市立美術館で開催中の特別展「山の神仏-吉野・熊野・高野」を観ることと、動楽亭での「第1回露の新治林家小染二人会」を楽しむこと。日中は堪らぬ暑さではありましたが二つとも大満足、少々帰宅は遅くなりましたが美味しいお酒で長い一日を締めくくることができました。

時うどん(林家染八
小染さんの息子さん、そして今夜が年季明けとのこと。大入りの会場で緊張気味、それでも大きな声で精一杯の高座。うどんの食べ方など注文はいくらでもありますが、それはそれとして、あまり余計なことを考えずにまず10年、頑張ってくださいね(15分)。
竜田川(露の新治
一般には「千早振る」と呼ばれるネタ、「竜田川」という表記には初めて出会いました。在原業平の歌の解釈をめぐるやりとり、ストーリーは特段変わったところはないのですが、甚兵衛さんが喜六を糺す言いぐさが独特の新治流。「つる」もそうですが、このような軽い噺こそ演者の力量が問われるもの。大ネタの華やかさも結構ですが、新治さんの滑稽噺、今後の充実が期待されます(29分)。
黄金の夢(林家小染
冒頭に個人的な家系(?)の暴露、おそらく実子である染八君の年季明けということで、いろいろと胸に迫るものがあったのでしょうね。私の年代にとっては、先代小染は風貌にも語り口にも独特の愛嬌があって、早世が本当に惜しまれた方。現小染さん、どことなく師匠を彷彿とさせて好きですね。大師匠である三代目林家染丸はよく記憶していますが、あのふくよかな風貌と表情は、むしろ当代染丸師よりも現小染さんの方に近いと思います。ネタは「芝浜」、魚屋夫婦のやり取りで同じ詞の繰り返しが何度かあってやや不自然、おそらくマクラを引きずっていたのでしょうが、ネタそのものが十分に入っていないような印象で一寸残念(38分)。
中入り
動楽亭には初めて来ました。ざこば師がマンションを改築して作られた小屋、普段は座椅子ばかりでゆったり座れるそうですが、当夜は後に子供用の小さなイスを沢山出しての大入り満員。地下鉄「動物園前」直近でとても便利、ただ、自宅からはさすがに距離があるので次回があるとすれば昼席かな。
仏師屋盗人(林家小染)
夜中仏師の家に入った盗人、うっかり仏像の首を落としてしまい、弟子さながらに手伝いをさせられるという展開。夜中の盗人に驚かぬ仏師と、徐々に弟子の立場となる盗人との会話が楽しい好きな咄。個人的には笑福亭の芸という印象がありますが、さすがに二席目で小染さんも自分のペース、独特のもっちゃり感が出てきて結構でした(21分)。
井戸の茶碗(露の新治)
現在発売中の雑誌『上方芸能』(192号)にご縁を頂いて、「江戸風味の上方落語」と題する一文を載せていただきました。新治さんへの応援メッセージですが、その中に「中村仲蔵」「柳田格之進」そして当夜の「井戸の茶碗」を例に、江戸のイキと上方のスイを表現できる希有の噺家として紹介させていただきました。その「井戸の茶碗」、実はこれまで聴く機会がなく、このために今回のチケットをとったといってもいいくらい。いやぁ、良かった、上方の噺家でこれほど武士を綺麗に描ける方はいないでしょう。節度を持った武士の姿が際立つ故に、屑屋の大阪弁、大阪人らしさに愛嬌が出て、気取りのない上品さが醸し出されます。東京の方で聴くとあまりにも上品すぎたり、善人ばかりで食い足りないときもあるのですが、新治さんの表現は、武士と町人が同じ時代を生きている様子が大変立体的に感じられて無理がありません。前に出た「芝浜」、それに「たがや」「抜け雀」などを入れ込んで絶好調の新治さん、生き生きかつ自在に語り尽くすその姿はまさに21世紀の上方風流(かみがたぶり)、暑かった一日を爽やかに締めくくっていただきました(36分)。

投稿者: myon

このブログの管理人は,京都の下町に住み,大阪の女子大に勤務するお気楽オジサンです.通勤車内の読書記録・上方落語鑑賞メモ・料理食べたり作ったり・同居猫ココの日常などを主なコンテンツとしています.