私は無実です

私は無実です
私は無実です

 映画『SAYAMA みえない手錠をはずすまで」、昨年11月13日の大阪初上映で観たのですが、今度は会場が阪急十三駅近くのシアターセブン、しかも上映後に監督・石川夫妻の舞台挨拶があるとのことで朝一番で行ってきました。写真は受付で購入した「無実手ぬぐい」、2色あったので私はブルー、ツレアイはオレンジ、明日からは通勤カバンに必ず入れていこうと思います。

 映画についてご存じない方のために、『NAMES GARDEN No.157』(メモリアルキルト・ジャパン、2014年2月26日)に掲載した拙稿を転載しておきます。

MQJのオススメ・シネマ
「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」 2013年/日本
寺口瑞生

◆「狭山事件」をご存じですか?
 1963年5月、埼玉県狭山市で起こった女子高校生誘拐事件、犯人を取り逃す失態を演じた警察に世論は厳しい非難を浴びせます。焦った警察は犯人逮捕に躍起となり被差別部落への集中見込み捜査、石川一雄さんを別件で逮捕、何ら物的証拠もないままに嘘の自白を引き出します。第一審での死刑、第二審での無期懲役が確定、しかし石川さんは獄中で文字を獲得し、1994年12月の仮出獄で実に31年7ヶ月ぶりに狭山に帰りますが、引き続き自分の無実を訴え、再審に向けて戦い続けます。
◆どんな映画?
 この映画は、金聖雄(キムソンウン)監督が石川さんと仮出獄後に結婚された早智子さんお二人の普段の様子を、3年間にわたって撮影されたドキュメンタリー。公式サイトには、このようなコピーが。

 “50年 殺人犯というレッテルを背負いながら
 泣き笑い怒り、日々を凛と生き抜く夫婦の物語!”

 映画の中で描かれる石川さんの日常は、毎朝のジョギング、控えめな食事、現地見学者への説明、そして月例の最高裁前でのアピール活動などなど。規則的かつ精力的に展開されてはいますが、部落差別や冤罪といった言葉の持つ厳しさ・鋭さに比して、驚くほど淡々と穏やかに描かれています。それ故、自分の無実への揺るぎない確信が、観る者に強く迫ってきます。
 石川さんは、自分の夢をこう語ります。「無実を証明して中学校に行きたい!」。
 部落差別の故に文字を奪われ、冤罪の当事者に仕立てられてしまった石川さん、これほどの不幸があるでしょうか。しかし、金聖雄監督は次のように述べています。

“石川一雄さんの日々の暮らしは今もなお苦難の連続です。「じゃあ石川さんは不幸なのか!?」いいえ、私にはむしろ幸せそうに感じられます。「冤罪」という強いられた人生をまっすぐに歩む石川さんの生き方は「幸せとは」「愛とは」「友情とは」そして「正義とは」…。いろんなことを私たちに問いかけているような気がします。”

 1970年代に学生生活を送った私にとってこれはたんなる「事件」ではなく、「狭山差別裁判」という権力犯罪であり、三里塚と並ぶ大きな社会運動の結節点でした。あれから40年という時間の経過の中で、この事件は「忘れてはいない」が普段の生活意識からは少し遠い存在となっていたことを、白状せねばなりません。しかし、金聖雄監督は事件が何も解決していないことを声高にアジテーションするのではなく、当事者である石川一雄さん・早智子さんご夫婦の生活を淡々と描き出すことで、えん罪を作り出すばかりかそれを許し続ける日本社会のあり様を「これでいいの?」とやんわり問いかけます。
 私にとっては、久しぶりに会った友人に軽く背中を叩かれ、「どうしてる? しっかりしいや」と、諭されかつ励まされているような、そんな気にさせてくれる映画です。
◆上映運動の広がり
 この映画は、2013年秋の完成以降全国各地で上映会を行い、それを受けた自主上映の動きが広がっています。石川さんの無実を確信し再審を実現させることは、今の日本社会に起こっている不気味な動きに対するはっきりとした異議申し立てになると思います。同時に、私たち一人一人の生き方を再点検する力も与えてくれます。一人でも多くの方にこの映画をご覧頂き、かつ、上映運動の広がりにお力添えを頂きたいと思います。
 映画の紹介や上映運動の情報については、公式サイト及びFacebookページで最新のものを確認することが出来ます。ぜひ、Facebookページで「いいね」を押していただき、情報の共有と広がりを実現しましょう。

・公式サイト  SAYAMA みえない手錠をはずすまで
http://sayama-movie.com/
・狭山事件の最新を実現しよう
 https://www.facebook.com/sayamajiken

 上映後の石川さん、早智子さんの挨拶、心に染み入りました。概要を紹介すると・・・

石川さん
私は読み書きが出来なかったので、騙されてしまった。獄中で私に文字の読み書きを教えてくれたのはその時の担当の刑務官、彼が自宅で妻に「石川は無実のようだ、文字も書けない」「本当に無実と思うなら助けてあげれば」「そんなことをしたら、私がクビになる」「無実だと思うなら助けなさい、それでクビになっても構わないから」と。8年間文字を教えてくれたおかげで、私は自分が差別を受けてきたこと、日本社会には他にも多様な差別があることを学んだ。私は文字を覚えてから、毎日3通の手紙を書いた。その切手や封筒は父が差し入れてくれたもの、しかし、後になってわかったことは刑務官の奥様が父の名前で差し入れてくれたものだった。
早智子さん
石川さんがいつも言うこと、「私は不運であったが不幸ではない」。逮捕され無実の罪で投獄されたことは不運であるが、そのお陰で文字を獲得し差別を理解し支えてくれる仲間を得た、決して不幸ではないと。しかし、事件発生から51年、無実を勝ち取るためにはさらに多くの人に狭山事件を知っていただき力になって頂きたい。

 映画の最後の石川さんへのインタビュー、「無実になったら何をしたいですか?」「事件とは関係のない色んな所へ行ってみたい」「一番行ってみたいところは?」「ケニア、動物の動いているところを観てみたい」。
 気丈に振る舞い発言する石川さんもすでに75歳、一日も早い再審と無実の確定、そしてケニアへの旅を実現させたいもの。この映画は回顧としてのドキュメンタリーではなく冤罪事件の今日的状況を伝えるもの、ぜひ多くの方にご覧頂きたいと思います。

投稿者: myon

このブログの管理人は,京都の下町に住み,大阪の女子大に勤務するお気楽オジサンです.通勤車内の読書記録・上方落語鑑賞メモ・料理食べたり作ったり・同居猫ココの日常などを主なコンテンツとしています.