歌之助が遺したネタ達(2012年1月4日)

 いつの落語会だったか忘れましたが、その日戴いたチラシにあった標記の落語会が気になって、今年初の天満天神繁昌亭に出かけてきました。2代目歌之助という方は、入門当初は「扇朝」という名前で、私など実はこちらの方が親しみがあったりします。昨晩のプログラムによれば、米朝師への入門が1967年7月、歌之助への改名が1975年1月ということですから、私が高校生の頃、まだ駆け出しの時に何度か聴いているということになりますね。後年になって桂米二さんの高座などで「不幸を呼ぶ男」というエピソードをよく聴きましたが、残念ながら個人的には体験しておりません。亡くなられたのが2002年1月2日、丸10年ということで桂九雀さんがプロデュースされたのがこの会、出演者が故人の思い出を語りつつ、教えていただいたネタを披露するというもの。当代歌之助君の人柄もあって、あっさりと嫌み無く、とても気持ちのいい会でありました。

猫の災難(二代目歌之助)
18時の開演と同時に出囃子がなり、場内は消灯、舞台にはスクリーンが降りてきて、映し出されたのは二代目歌之助。「猫の災難」のサゲ前、隣家の猫のせいにして友人から酒と肴をせしめてしまう噺。いつの映像か知りませんが、動く歌之助を見たのは本当に久しぶり。5分間ではありましたが、会場からは大きな拍手。照明がついてスクリーンがあがると、そこには故人の写真が登場し、本日の出演者はその写真の下で噺を披露するという趣向。
御公家女房(桂咲之輔)
プログラムには「ご祝儀」、普段なら「開口一番」とするところですが、そこは正月興行。登場したのは春団治門下・春之輔さんの二番弟子、5年目の若手ですがもちろん私は初めて。丁寧な公家言葉しか喋れない女性を妻にしてのドタバタ、サゲは「宮内庁御用達」という初めて聴くものでした。ご本人の工夫なのかどうかしりませんが、元気があって声も出ていましたから、まずは結構としておきましょう(14分)。【訂正】演題を「延陽伯」としていましたが、「御公家女房」ですね、失礼しました。
水屋の富(桂こごろう)
春には「桂南天」襲名が決定しているこごろうさん、近頃は安定感抜群で、安心して聴くことができます。水を各家庭に配達する水屋、富くじで当たった800両をもとに新しい商売を始めたいのだが、後継者を見つけるまでの間に金の保管が気になって眠れない・・・。こごろうさんに因れば、上方では多分誰もやっていないだろうとのこと。ただ、枝雀さんが枝雀寄席で演じておられるのが1985年、元来は江戸の噺ですから、枝雀さん自身はどのような経緯でこの咄をやられたのか、ちょっと気になりますね(20分)。
尿瓶の花活(笑福亭生喬)
松喬さんの三番目のお弟子さん、入門20年を超えてさすがに貫禄があります。このネタは歌之助さんが橘ノ円都師から教わったものとか。円都師は神戸出身の方で、長生きされたことで多くの噺を後輩に伝えられた功労者、私自身はラジオで聴いたことはありますが、生では知りません。田舎から出てきた侍が道具屋で尿瓶をそれとは知らずに購入して花を活けていた。滞在先の宿でその本来の意味を教えられて激怒、道具屋を切ろうとするが・・・。小品ではありますが、尿瓶の由来や侍と町人のコントラストなどなかなか愉しめる噺。なかなか鮮やかに演じきって結構でした(20分)。
茶の湯(桂米二)
今回の出演者の中では最年長者、ここまでの出演者は「歌之助師匠」と呼び、米二さんは「歌之助兄さん」と呼ばれます。その米二さんが入門されたのが1976年11月ですから、歌之助さんとの間には10年近い開きがあるのですね。プログラムに因れば、現在も続く「かねよ寄席」は当初歌之助さんが世話人、小さな会のお世話をよくされたという点では、お二人には共通点があります。ただし、性格的にはちゃらんぽらんとマメという違いはあるようですが。この噺は、現役時代は仕事しか知らなかった隠居が、暇をもてあまして我流で茶の湯を始め、周囲をドタバタに巻き込むというもの。米二さんでは、2004年6月2007年4月の二回聴いています。表情にあまり大きな変化を付けない(付けられない)米二さんが演じると、京都人の皮肉な視線が感じられて面白い、人にあった咄です(26分)。
中入り
座談会(橘右一郎・桂米二・桂歌之助)
ゲストの橘右一郎さんは寄席文字の橘右近さんのお弟子さん、なんと、歌之助さんとは中学の同級生であったとのこと。性格のちゃらんぽらんさとは裏腹に、小さい頃から頭が良く、手先が器用で色んなものを手作りするというエピソードを披露していただきました。米二さんが紹介する「ええ加減さ」と好対照で、当人の人となりをより鮮明にする楽しい一時でした(21分)。
孝行糖(桂九雀
九雀さんを聴いたのはずいぶん久しぶり、いつの間にか髪が真っ白になっていたことにちょっと驚き。ご本人は主宰する落語工房を解散されるとのことで、今後の活動の方向性が気になるところ。この咄は、親孝行で奉行所から褒美をもらった男を一人前にするため、周囲が飴売りに仕立てるもの。オチはあまりにも有名ですが、生で聴いたのは初めてかも知れません。座談会が若干押したのでしょうか、テンポ良く15分で切り上げました。
善光寺骨寄せ(桂歌之助)
二代目歌之助と言えばこの咄、ただ、私は未見でした。当代は1971年3月生まれ、千葉大学工学部を卒業後1997年3月に二代目に入門、2007年1月に三代目を襲名されています。何度か聴いたことはあるはずですが、正直、ほとんど印象に残っていません。じっくりと聴いたのは今夜が初めて、いやぁ、結構ですねぇ。軽さが爽やかさとなって嫌みはなく、この味わいに年輪が重なれば大変面白いと思います。ネタは、石川五右衛門の遺骨を集めて蘇らせ、善光寺で盗みを働かせるというもの。上方落語好きには好まれるような小ネタを集めた仕様ですが、見せ場である骨寄せの際に使用する骸骨、師匠の遺した頭骸骨に自作の人骨を組み合わせ、見事骨寄せに成功。この実物は、米二さんがTwitterに画像を投稿されていますので、是非ご覧下さい(22分)。

 

投稿者: myon

このブログの管理人は,京都の下町に住み,大阪の女子大に勤務するお気楽オジサンです.通勤車内の読書記録・上方落語鑑賞メモ・料理食べたり作ったり・同居猫ココの日常などを主なコンテンツとしています.