谷崎潤一郎のシリーズも5冊目,『吉野葛・盲目物語』を読み始めました.昨日の帰路から「吉野葛」を読み始め,ぐいぐいと引き込まれ,今朝の出勤車内で読了.とにかく,吉野・熊野のおなじみの場所が舞台となってなじみの地名が登場し,しかも浄瑠璃や歌舞伎の題材が盛り込まれているために,大変楽しく読み終えました.もっとも,もう少し古典(=昔の人の教養)をしっかりとおさらいしておく必要は感じましたが.今回驚いたのは,文中に登場した「熊野鯖」という表現.もちろん,熊野で鯖寿司はしょっちゅう食べてきましたが,「熊野鯖」という表現には(恥ずかしながら)初めて出会いました.
谷崎の記述を引用すると,
「・・・夜食の膳に載っていた熊野鯖と云うものが非常に美味であったこと.それは熊野浦で獲れた鯖を,笹の葉に刺して山越で売りに来るのであるが,途中,五六日か一週間程度のあいだに,自然に風化されて乾物になる,時には狐にその鯖の身を浚われることがある,と云う話を聞いたこと」(新潮文庫版,p75)
これまでの熊野での調査体験で,浜の人が山の方へ魚を売りに行く話は何度か聞いていました.しかし,私は吉野の方での調査体験がないものですから,このような表現と出会うことがなかったのかも.いずれにしても,もう少し視野を広げた学びをせねばと,反省しきりであります.