方便の旅

 たまたま見かけた歴史街道推進協議会のチラシで神崎宣武氏の講演会を知り、本日聴講してきました。もう四半世紀以上前の話ですが、当時遅れてきた大学院生として農村社会学を学び始めた私は、今は亡き米山俊直先生に色々とお世話になっていました。ある時、ゼミの打合せか何かで研究室を訪問すると先客がおられ、「宮本常一先生のお弟子さんだよ」と紹介していただきました。当時神崎さんは観光文化研究所で仕事をされていましたが、現在はその後継である旅の文化研究所の所長をされています。不勉強でお名前を存じ上げなかったのですが、「宮本常一の弟子」というだけで、突然目の前に大好きなタレントが現れたかのような印象を持ったことでした。

 今日のお話は、日本人の旅の文化は江戸中期に形成されたもので、今に生きる私たちがその内実をしっかりと学び継承することで、経済的な豊かさとは別のもう一つの豊かさを得ることができるというもの。「旅欲」というキーワードで江戸時代の庶民の旅の中味を紹介され、建前とは別に「方便」が豊かな旅の文化を創り上げてきたことを、民俗学の豊富な知識と実例でわかりやすく講じられました。主催者のねらいは来年の伊勢神宮の式年遷宮にむけての雰囲気作りですが、江戸時代の伊勢参りは天照大神というよりも、日本人にとっては村の氏神の大元である「祖神様(おやがみさま)」をお詣りするものであったとして「庶民の旅の実相」を強調されていました。この辺りはさすがに上手いと思いましたね、イデオロギーをあまり意識させずにかつ多様な立場を包含する話の運びでした。何よりも、資料を一切見ることなく落ち着いた語りで板書もまじえての話しぶり、まだまだ自分の「芸の未熟」を恥じ入った次第です。

投稿者: myon

このブログの管理人は,京都の下町に住み,大阪の女子大に勤務するお気楽オジサンです.通勤車内の読書記録・上方落語鑑賞メモ・料理食べたり作ったり・同居猫ココの日常などを主なコンテンツとしています.