第五回露の新治寄席@大倫寺

第五回露の新治寄席@大倫寺
 昨年、露の新治師匠の噺を初めて聴いたときは衝撃を受けました(当日の記事はこちら)。結果、この方の高座は可能な限り聴いておこうと、1月18日(土)第五回露の新治寄席に出かけました。会場は高津神社近くの大倫寺、入口には写真の提灯と幟、開場15分前に着いたのですが、寒さもあってすぐに本堂にいれていただきました。その段階で10名余りの方が来ておられましたが、前から3列目に席をゲット。程なく世話人の方から「新治からのお年玉でございます」と、早くに着席した我々に手拭いのプレゼント。結局、開演時には約120名の大入り満員、寒さの厳しい夜でしたが熱気あふれる好演続き、今年の初落語を堪能したことでした。

「延陽伯」(露の紫
露の都師の三番目のお弟子さん、入門6年目、ただし入門時34歳という経歴には少し驚かされました。ググってみると、結構面白いキャリアの持ち主なのですね。昨年のNHK新人演芸大賞での(世間での)評価が高く、一度聴いてみたいと思っていた方です。とても愛くるしい表情で語り口もしっかりしており、明るい高座姿は華があって大変結構。ただし、一点だけ気になるところがありました。冒頭に家主(?)が縁談をもってヤモメのうちへ入ってくる、奥へなおって、今晩花嫁を連れてくると話がまとまる。やがてうちを出る家主を、ヤモメが上手に向かったままで送り出しました。ここはちゃんと、上手から下手への移動を表現しなくては不自然。たんなるミスなのかそうでないのか、ちょっと気になる箇所でした(16分)。
「つる」(露の新治
今回は後の「柳田格之進」はネタ出し、もう一席は何をされるのかと思いきやなんと「つる」。この噺、私も高校時代にやりましたが下手がやるとちっとも面白くない。ところが、ベテランがこれを手がけると爆笑編となるから不思議、いや、実によくできた噺です。さて今夜の新治さん、何度か噛む場面があって、体調でも悪いのかといささか心配の出足。それでも段々とエンジンが掛かり、後半は爆笑の連続。冒頭で座り方を糺された際の錆田先生宅での「足が六本」、つるの首と足のバランスなど、私が馴染んでいる噺とは異なる演出が随所にあって大変興味深く聴かせていただきました(25分)。
「鴻池の犬」(桂千朝
サプライズゲストといいながら、すでに数日前からウェブ上では千朝師の登場が予告されていました。この方は独特の粘りのある間、聞き慣れないとちょっといらつく方もあるかも知れません(以前の私がそうでした)。しかし、師の間に委ねてしまうと、これが大層心地よく聴けるのです。このネタ、放送やホールとは違って客席が近いせいか、いつも以上にサービス精神にあふれた演出であったように感じます。メディアにはあまり登場されませんが、故・吉朝さんとほぼ同期の実力者、米朝落語の一面を継承する大事な役割を担っておられます(30分)。
中入り
「永田町商店カラオケ大会」(桂勢朝
当初のチラシではゲスト扱いでしたが、千朝師の登場によって、今夜の勢朝さんは色物扱い。ご本人もトリ前を意識しての雰囲気作りに徹しておられました。「花束より札束」「ご声援より五千円」、そこそこの程度で客をいじった後は、標記の時事ネタ。この手の噺、個人的には好きではありません。というのも、演者と観客との間にギャップが出来やすく、その際についつい演者が上から目線になりがちでいい気持ちがしないのです。それはそれとして、森昌子の唄で下げたのですが下座が気づかず、頭を下げてから高座を降りるまでお囃子なし、個人的にはこの場面が一番笑えました(22分)。
「柳田格之進」(露の新治)
これを聴きたくてやってきました、そして、本当に良かったと思います。実は、昼間に手元にあったある東京のベテラン噺家の映像で予習しました。舞台設定、登場人物の個性のつけ方、サゲをどうするかなど。昨秋聴いた「中村仲蔵」では大坂の役者が江戸へ出るという設定でしたが、今回は彦根藩の武士が大坂の長屋で暮らす設定。浪人はしても武士の矜持を忘れぬ主人公、その人柄に惚れ込んだ人の練れた商人、その元で店を預かる大番頭。何しろ新治師、武士と商人の身分の違い、立場の相違を崩すことなく演じ分ける所作と口跡が素晴らしい。そして大事なところは、大番頭を上手に使ってちゃんと笑いを取る。何よりも、最後に綺麗な人情噺として余韻を残すというよりも、ちゃんとサゲをつけて落語として終わる。東京の演者で聞き慣れた噺ですが、露の新治師、あくまでも「上方落語」として演じきってくれました。大満足、大感謝の一席であります(46分)。

 終演後、当夜の参加者への特典として、4月19日(土)の第五回露の新治寄席・さん喬新治二人会への予約受付、もちろんお願いして帰途につきました。

投稿者: myon

このブログの管理人は,京都の下町に住み,大阪の女子大に勤務するお気楽オジサンです.通勤車内の読書記録・上方落語鑑賞メモ・料理食べたり作ったり・同居猫ココの日常などを主なコンテンツとしています.