近年東京の寄席で大活躍の露の新治さん、初めて聴くことができたのが第四回露の新治寄席(2013年10月12日)でした。その容子と語り口にひかれてできる限り聴いておこうと第五回(2014年1月18日)、第六回(2014年4月19日)、第七回(2014年7月19日)と回を重ねて第八回、昨晩の天満天神繁昌亭は補助席も出る大入り、内容も大満足、慌ただしくも楽しい一夜を過ごすことができました。
- 「大安売」(露の紫)
- この方は第五回露の新治寄席@大倫寺で、「延陽伯」を聴いています。愛くるしい表情、多彩なキャリア、何より華があって結構ですね。登場するなり関取になぞらえてのキャッチコピーの紹介、予想通りこのネタへ。声も口調も結構なのですが、今回も目線の使い方に少し疑問が。町内の若い衆二人が関取と会話する展開なのですが、主に関取とやり取りする男が隣のツレに向かって話すべき所、目線が目の前の関取と同じ所に向いているのです。これでは独り言のようで隣の男の存在がわからない、少し目線をずらすだけで空間の広がりが理解できて分かりやすくなると思うのですが・・・(14分)。
- 「狼講釈」(露の新治)
- 私が新治さんの存在を意識したのが2013年6月22日の三田落語会、当夜の「大丸屋騒動」が東京の落語ファンの間で大反響、それをいくつかのブログで拝見したことから音源を買い求めたのです。それ故、このネタは何度も聴いていますがもちろん舞台では初めて。今年前半からの体調不良が気になっていたのですが、いささか緊張気味ではありましたがさほど心配はなさそう。「鉄砲」についての二つの意味の解説から本編へ、聴いていた音源では東京を意識したくすぐりが入っていましたが(をを、柳亭市馬か!)、今回は「例の県会議員」を登場させて拍手喝采。どうやら、昼席でも同じネタをかけられたようで、無理せず手堅いスタートでした(19分)。
- 「曲ごま」(伏見龍水)
- 初めて拝見しましたが、「石田たかし」という名前でも活動されている「古典曲独楽はもちろん“和洋折衷こまパフォーマンス”という日本で唯一の内容を持つ曲芸家」とのこと。一見今どきの若者ですがすでに四半世紀近いキャリア、こまは当然ですが話術も巧みで客のつかみ方が上手、役どころを心得たプロのお仕事(20分)。
- 「蔵丁稚」(露の新治)
- 袴をはいての登場、これだけで期待感がグッと増しますね。第六回で「七段目」を聴いていますが、芝居話では新治さんメリハリのきいた所作が観ていて誠に心地よい。今夜は芝居見物で遅くなった丁稚が罰として蔵の中に放り込まれ、空腹を紛らわせるために芝居の真似をするというお馴染みの展開。この「四段目」ですが丁稚が真似をしていると思わせては効果半減、あくまでも本当の芝居のように演じてこその落語。新治さん、登場人物それぞれの個性をきっちりと演じ分け、客席はあたかも劇場で本当に芝居を観ているかのように舞台に引き込まれていました。サゲ前、旦那がお櫃を差し出す場面で拍手が来てしまったので、ほんの一寸間をとってから下げた後、とてもスッキリとした笑顔で頭を下げられたのが印象的。ご本人にも満足いく出来映えだったのでしょう、これまで聴いた中で最高の「蔵丁稚」でした(29分)。
- 中入り
- 「井戸の茶碗」(露の新治)
- 「第1回新治小染二人会」(2014年5月31日)で初めて聴いています。大坂を舞台にした話ではあまり「ちゃんとした」武士は出てこないのですが、新治さんの手によって爽やかで節度ある二人の武士が造型されたことは特筆もの。屑屋さんと下男の二人も庶民の世界の「いい人」と「普通の人」がお金を通して対比的に描かれて、登場人物すべてが生き生きと動く噺です。下手にやればただのいい話で終わってしまいがちですが、人物造型が明確故同じストーリーでもぐんぐんと引き込まれていきます。節制による体調回復もあってのことでしょう、ご本人もイキイキ、こちらもワクワク大満足でした(37分)。